腫瘍循環器学(Onco―cardiology)は、がん患者さんの心血管に関する問題を考える新しい学問領域として世界的に非常に注目されています。日本でも、2018年に日本腫瘍循環器学会ができ、2023年3月にはガイドラインが策定されるなど、この分野は急速に発展しています。日本をはじめとする多くの国々で、超高齢化の進展により、がん、心血管病に罹患する人の数が増えています。さらに、がん治療の著しい進歩によってがんサバイバーが増えた反面、がん治療に伴う心血管の重大な障害が問題になるとともに、心血管病を合併したがん患者さんの治療を考えるニーズも大きく高まっています。そのために、循環器、がん診療の連携が急速に進んでいます。世界中で臨床ビッグデータを用いた解析が精力的に行われていますが、心血管に問題を抱えたがん患者さんの問題に個別に対応するためには、それだけでは不十分です。これまでがん研究領域で行われてきたような、膨大な生物学的基礎研究の地道な積み重ねが必要です。そこで、私たちは三重大学腫瘍循環器(onco-cardiology )研究センターを設立しました。
本センターは、三重大学附属病院総合がん治療センターと連携し、ほぼ全ての診療科、研究室が参加するvirtual instituteです。がん患者さんの治療を行う上での心血管の課題を抽出し、それを解決すべくいくつもの共同研究チームを組んで病態メカニズムを解析、事前予知、早期診断、新規治療法の開発を行なって、がん診療に還元することを目的とします。そのために、既存の枠組にとらわれずに自由に意見を交換できるプラットフォームを提供し、それぞれの専門分野の強みを生かしながら協力し合ってシナジー効果を生み出し、共創的研究の場になることを目指します。
